中川 淳
京都大学法学部卒業後、2000年富士通株式会社入社。2002年、300年の歴史を持つ株式会社中川政七商店に入社し、常務取締役として「遊 中川」の直営店出店を加速させ、日本初の伝統工芸をベースにしたSPA業態を確立する。また2003年に新ブランド「粋更kisara」を自ら立上げ、2006年には表参道ヒルズにフラッグシップショップをオープン。2008年に十三代社長に就任。
Text:山田 真弓 Photo:稲垣 徳文
クオバディスは雑誌Beginの記事を読んで知りました。まだ学生の頃で、「かっこいいダイアリーだ。社会人になったら使おう」と楽しみにしていました。11年前に社会人になってからずっと、「エグゼクティブノート」を使ってきました。使い終わったダイアリーは今も自宅に置いてあります。
なんといっても、週ごとにミシン目を切って使うオートマチック開閉の機能がすばらしい。バーチカルのタイムスケジュールも使いやすいし、サイズ感もピッタリです。印刷の配色なども文句なし。この「エグゼクティブノート」とメモやノートを併用していました。
ただ、残念ながら実は今、クオバディスのダイアリーを使うことができていません。2年ほど前から、それまでとは比べ物にならないほどスケジュールが増え、社員とスケジュールの共有化をする必要もあり、デジタルに移行せざるを得なくなりました。
ところがデジタルでスケジュール管理をするようになってから、ますますクオバディスの魅力を実感するようになったのです。
最も大きいのは、瞬時に書き込みができる点。スケジュールに入れた打ち合わせで話さなければならないことや思いついたアイデアを、ダイアリーならすぐに書くことができます。また、一覧性や視認性が高く、俯瞰で確認できることも重要です。TO DO管理はもちろんのこと、長期的なスケジュールの書き込みにクオバディスは最適なんです。たとえば僕は毎月末、社員全員に向けて1つのテーマでメールを出します。毎月25日の欄に「テーマ」と書いておけば、その週のページを開くと、そろそろテーマを考えなければ…と気づきますし、アイデアをパッと書き込めます。
デジタルのダイアリーは、定期スケジュールを簡単に入力できますが、一覧性に欠けます。またリストでスケジュール管理できても、その量が多いのか少ないのか視覚的に記憶しづらい。デジタルに移行してから、スケジュールが全然頭に入らなくなってしまいました。これがクオバディスの場合、どれくらい書き込まれているスペースが大きいかで、予定のボリュームを把握できるんです。
使いやすさ、質感などを含め、やはりクオバディスに戻りたいといつも感じています。
僕は、自他ともに認めるクオバディス好きだと思います(笑)。だからこそ今回のコラボレーション「クオバディス×中川政七商店 エクオロジー」は特別なものになりました。
きっかけは、3年前に中川政七商店として鹿革カバーを作らせていただいたこと。カバーを留めるペンさし、カラーまで「社長独断企画」で進めた思い入れのある商品だったのですが、それを「遊 中川」にふらりと訪れたクオバディスのフランス本社社長にご覧いただく機会がありました。その報告を店舗から受けたのと同じころ、クオバディスのホームページでも鹿革カバーが紹介され、コラボレーションの話をいただきました。
今回のカバーのテーマはエコですが、麻は、エコに最適な素材です。天然で農薬を全く使わずに栽培でき、場所によっては三毛作が可能で資源効率もいい。また動力を使わず人の手でつむげば、産業二酸化炭素排出がなくて済む。そして、中川政七商店が何屋かといえば麻屋です。ぜひ、機械織りではなく手紡ぎ、手織りの麻を使用したいと考えました。
カバーの内側にすべりをよくする素材を使うなど、細かいこだわりはたくさんありますが、もう一つこだわったのは、コラボブランドのタグをあえてつけないこと。「●●×■■」など企業名、メーカー名の入ったタグやロゴは、作り手側はつけたくても、使う側の立場に立つと必要がないものですよね。ただ、どこかにコラボの印を入れたくはあったので、刺繍でコラボを表しました。クオバディスのフランスを象徴するエッフェル塔と、奈良を象徴する鹿の刺繍。鹿がパリに遊びに行く…そんなイメージです。
いいモノづくりには、背景に人に話したくなるような物語がある。使う方がこの刺繍を見て、「これは実はクオバディスと中川政七商店のコラボカバーで…」と誰かに話したくなってくれたら、いいですよね。
中川政七商店には300年という歴史があります。でも僕自身はそれを重いと感じたことはありませんし、代々そうだったのでしょう。もし、守ろうという意識が強かったら、300年も続いていないと思います。
父親から代替わりをするときに言われたのは「あまりとらわれずにやりなさい」というひと言だけ。麻に関してさえ「とらわれなくていい」と言われました。唯一の願いは商売を続けること。
だからこそ、「自分たちの欲しいもの」を作りたいと思います。お客様の意見は大事ですし、使用していただいての意見は真摯に受け止めます。でも、それ以上に、僕らは普段から本当に真剣に商品のことを考えている。その感覚を、信じています。
ですから逆に、僕はクオバディスに求めるものはありません。このダイアリーに、文句の付けどころはありませんから。
やっぱり、クオバディスに戻りたいですね。(笑)